三国志NET蒼姫国
武経七書
兵法書『李衛公問対』
●『孫子』で語られている用兵に欠かすことの出来ない「正」と「奇」はなんぞや

上の巻(3)

太宗が尋ねた
  「昔の将軍たちが敵と対陣したとき、奇兵を繰り出して相手の不意を突いた例がある」
  「これは奇兵の変化に則ったことではないのか」
李靖:「昔の戦いは多くの場合、わずかな策略で無策の者に勝ち、わずかな徳で徳のない者に勝っただけのこと、」
  「兵法がどうかなどと論ずるには値しません。
  たとえば謝玄が前秦の苻堅を破ったのも、謝玄がすぐれた徳を備えていたというより、苻堅に徳が欠けていたからにほかなりません
太宗は待臣を呼んで謝玄の伝記を探させると、自ら目を通して、
  「苻堅のどこに徳が欠けたところがあったのか」
李靖:「苻堅の伝記に、このような記述があります。」
  《前秦の諸軍が敗れて総崩れとなったなかで、慕容垂の率いる軍だけ無傷のまま残ったので、
  苻堅は千余騎を率いてそこに難を避けた。このとき、慕容垂の子、宝が堅を殺すようにすすめたが、垂はあえてそうしなかった》
  こう記されていますが、全軍が総崩れになったなかで慕容垂の軍だけが無傷で残ったのは
  間違いなく彼に陥れられたのです。味方に陥れられながら、敵に勝つことを望んでも、
  それは無理と言うものでしょう。だからわたくしは申し上げるのです、無策とは苻堅のような輩を言うのだと」
太宗:「『孫子』もこう語っている。《勝利する条件が整っていれば勝ち、整っていなければ敗れる》と。
  してみると、僅かでも勝利する条件のある方が、全くそういう条件のない相手に勝つ事も明らかである。
  これは独り苻堅だけでなく、全ての場合にあてはまるだろう」


太宗が尋ねた
  「黄帝の兵法として、世に「握奇の文」が伝えられている。これは別名「握機の文」とも呼ばれているが、如何なるわけか」
李靖:「奇と機は音が同じなので、「握機」とも言われているのです。意味する所は変わりません。
  元の文章には《九つの陣のうち、四陣を正とし、四陣を奇とし、余奇を握機とする》と書かれていますが
  ここで言う〈余機〉とは八つの陣に属さない余りの軍、すなわち大将軍直属の軍を意味します。
  ただ音が同じなので「握奇」を「握機」とする者もいるのです。
  わたくしの考えでは、〈握機〉つまり機を掌握するというのは全ての戦いについて言えることでありまして、
  なにも大将軍直属の軍にだけ当てはまる事ではありません。
  それ故、「余奇」の奇をとって「握奇」とするのが正しいのです。
   そもそも正兵とは君主より授かるもの、奇兵とは将軍自らの判断で繰り出すものです。
  兵法にも、《普段から軍律の徹底を図ってきちんと教育していれば、兵士は喜んで命令に従う》とあります。
  これが乃ち君主から授かる正兵です。また《戦略は事前に洩らさず、君命といえども受けない場合がある》とありますが
  これが乃ち、将軍自らの判断で繰り出す奇兵にほかなりません。
   将軍たちのなかで、正ばかりで奇を行えない者は守将、
  逆に、奇ばかりで正を行えない者は闘将、
  奇と正をともに使いこなせてこそ国の主柱たるべき人物なのです

   このように握機と言い、握奇と言っても、大本に違いはありません。
  兵法を学ぶ者だけが、両者の違いを心得ていればよいのです」


太宗が尋ねた
  「陣形には九つある。真ん中の零の陣は大将が直轄し、これに準じてその周り四面八方に陣をはるのである。
  陣と陣の間にまた小陣があり、部隊を部隊の間にまた小部隊が配置されている。
  移動する時には、前陣が後陣になることもあるし、後陣が前陣となることもある。
  進むにも退くにも慌てて走り出すことはない。さながら四頭八尾の獣のように
  敵に触れるところが首となり、敵が胴を攻めれば、首尾両頭がこぞって胴を救うのである。
   しかし、陣の形は《五に始まり、八に終わる》と言う言葉もある。これはどういうことなのか」
李靖が答えて
   「かつて諸葛亮は巨石を縦横に配置して八行の陣をつくりましたが、世に言う方陣とはこれを言うのです。
  わたくしが軍を教練したときにも、必ず まずこの陣形から教え込みました。
  黄帝の「握機の文」なるものは、ただその概略を示したものにすぎません」
太宗:「天・地・風・雲・竜・虎・鳥・蛇 この八つの陣は何を意味しているのか」
李靖:「それは後世に、誤って伝えられたものです。古人はこの陣法を秘匿して知られないようにするため
  仮に八つの名前をつけたのです。八陣とはもともと1つも陣形の事であって
それをただ便宜的に八つに分けたものなのです。
  因みに「天・地」の名は大将の赤い旗印kら、「風・雲」の名はたなびく長い旗印から
  また「竜・虎・鳥・蛇」の名は隊伍の組み分けにちなんでつけられました。
  これが後に誤って伝えられた為に、竜陣なら竜を象っているかのように誤解されたのです。
  陣立てが、どうして八つだけに止まりましょうか」


つづき『李衛公問対』上の巻(4)

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全訳「武経七書」(2)司馬法 全訳「武経七書」(2)「司馬法」「尉繚子」『李衛公問対』

著者:守屋洋
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