三国志NET蒼姫国
武経七書
兵法書『李衛公問対』
●〈三門四種〉はなんぞや

上の巻(5)

太宗は尋ねた
  「『司馬法』は司馬穣苴の書き著したものだと言われているが、まことであろうか」

李靖:「『史記』の〈穣苴伝〉に斉の景公のとき、穣苴は巧みな用兵で燕・晋の連合軍を敗り、
  喜んだ景公から司馬の姓を与えられて司馬穣苴と称し、以来、子孫も司馬姓を名乗るようになった とあります。
  斉も威王の代になってから、伝えたれてきた『司馬法』を整理し、穣苴の学んだことを付け加え、『司馬穣苴の書』数十篇作りました。
  今に伝わる『司馬法』とはこれを指しているのです。また、 兵法家の流派を
  権謀・形勢・陰陽・技巧 の四派に分けていますが、こういう分け方も元はと言えば、この『司馬法』に始まっているのです」
  
太宗:「漢の張良と韓信は、それまでの兵法書を百八十二家に分類し、不要なものを省いて三十五家を選んだという。
  しかし現在には伝わっていない。いったい何が書かれていたのだろうか」
  

李靖:「張良は、太公望の著した『六韜』『三略』から学び、韓信は穣苴、孫武に学びました。
  しかしその内容はいずれも〈三門四種〉をを越えるものではありません」
  
太宗:「」

   「太公望の書に、「謀」篇八十一篇があります。これは陰謀の手口をまとめたものですが、その内容は言葉では語り尽くせません。
  同じく「言」篇七十一篇の内容は、兵法をもってしてはその妙を窮め尽くすことはできません。
  さらに「兵」篇八十五篇の内容は、いかに財力を使ってもそれだけでは窮め尽くすことができません。
  この三つの篇を指して〈三門〉と言うのです」
  
太宗:「では〈四種〉とは何か」

李靖:「漢の任宏が兵法書を論じて、権謀・形勢・陰陽・技巧の四つに分類しました。それがここで言う〈四種〉にほかなりません」
  
  
太宗は尋ねた
  「『司馬法』は、冒頭で春と秋の狩りについて記述している。これはごのような意味があるのか」

李靖:「季節を選んで狩りを行い、獲物を神に献納したのです。その目的は、狩りに名を借りて兵を鍛えることにありました。
  だから重視されたのでありまして、「周礼」ではこれを国の最も重要な儀式に数えています。
  たとえば、周の成王のときには〈岐陽の蒐〉康王のときには〈ほう宮の朝〉ぼく王のときには〈塗山の会〉が催されました。
  この儀式は天子だけに許されたものですが、周が衰えると斉の桓公が〈召陵の師〉を、晋の文公が〈践土の盟〉を開きました。
  これは、天子の命を奉じて天子の行うべきことを代行したのですが、
  実際は天子の命に従わない諸侯を〈九伐の法〉をもって押さえ込んだのです。
  天子は諸侯を召集したり、諸侯を巡行したりする機会を利用して軍事訓練を行いましたが、それは他でもありません
  平穏なときには妄りに軍事行動を起こさないことを示すとともに、農閑期に訓練を行うことによって
  けっして軍備をおろそかにしてないことを示したのです。
  『司馬法』が巻頭で狩りのことをとりあげているのは、深い意味があるのです」


太宗は尋ねた
   「『春秋左氏伝』のなかに、楚の〈二広の法〉に触れた部分があり、こう書かれている。
  《旗や金鼓の合図に全軍が一糸乱れず行動し、厳しい規則をまったく必要をしない》と。
  
これも周の制度にもとづいたものなのだろうか」
李靖:「『春秋左氏伝』を見ますと、こう書かれています。
  《楚では戦車三千台を1つの単位をし、一台ごとに主力部隊と支援部隊を従える。
  兵士は戦車のながえの右を行進し、そこで隊列を組んで敵と戦う》と。
  これは周の制度と同じです。ただ一つ違うところは、当時楚では主力部隊を百人、支援部隊を五十人とし、
  合わせて百五十人が戦車に従うという形を取っていました。
  一方周の制度では、軽装備の兵士が七十二人、重装備の兵士が三人、合わせて七十五人が従い、
  それを三隊に分けていました。楚の方が兵士数が多いのは、山がちの国で戦車が少なかったからです。
  兵士の数以外はまったく同じものなのです」


『李衛公問対』上の巻(6)

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全訳「武経七書」(2)司馬法 全訳「武経七書」(2)「司馬法」「尉繚子」『李衛公問対』

著者:守屋洋
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